作成: 令和2年11月2日, 編集: 11月13日, 創価大学理工学部 畝見達夫
個体ベース感染シミュレーションにより,集団内での集会の頻度と規模が流行に及ぼす影響を明らかにする。 現在の計算機環境で可能な規模を考え,ここでは人口1万人,4万人,9万人の集団についてシミュレーション実験を行う。
個体の移動は次の要素の組み合わせにより決定される。
ここでは 3 の集会の頻度と規模が感染拡大の及ぼす影響に関係するシミュレーション実験を行い, 結果の統計的傾向についてまとめる。 モデルの概要については, こちら を参照されたい。
集会の頻度を 0-40 の範囲で 2刻みで変化させた21とおりの値について, 各10回シミュレーションを実行し,感染者数の推移を記録する。 また,集会の規模を 1-10 の範囲で 1 刻みで変化させた11とおりの値について, 同じく10回のシミュレーションを実行し,感染者数の推移を記録する。 シミュレーション期間は,最長で200日間とし,それ以前に感染者がいなくなった場合は,そこで中止する。 なお,頻度 0 と規模 0 は,集会が行われない状況であるため,分析には共通のデータを用いる。 規模は集まる力が及ぶ範囲であり,単位はその領域の半径を表す距離である。 規模を表す値はその最小値で,最頻値および最大値はその2倍と4倍にそれぞれ設定する。 詳細はモデル仕様の個体の行動モデルの節を参照されたい。
その他のパラメータを含めた既定値は下記の表のとおりである。
その他のパラメータは,かなり緩い対策がとられた状態である点にも注意されたい。
つぎに示す左側の図は,全体の人口に占める感染者の割合の時間変化について,10回の試行の各ステップでの平均をとったものである。 この指標は陽性判明者数とは異なるので,現実に測定することが難しいという点には注意されたい。 右側の図には,ピーク時の感染者数,200日分実行後の累積感染者数,ピークの日付の平均値を示す。
画像を拡大するにはここをクリック
画像を拡大するにはここをクリック
人口4万人で頻度が16を超える場合,および,人口9万人で頻度が12を超える場合では,頻度が高くなるほど感染の拡大率が大きくなることが見て取れる。 これは,集会の促進がより多くの感染と,同時に早期の終息をもたらすことを意味する。
平均値による結果は,連続値を仮定した数理モデルに基づくものと同様の推移を示しているが, 各シミュレーション過程を見ると,特に感染者数が少ない場合には,大きな揺らぎがある。 以下の図にすべてのシミュレーション過程を列挙する。
人口4万人の図からは,頻度が10より大きい場合に終息が早まる傾向が見て取れる。 一方,10から18の範囲では,200日を過ぎてもなお感染者数が増え続ける場合が観察される。
以下の図は,上に示したものとほぼ同様だが,集会の頻度ではなく規模に関するものである。
画像を拡大するにはここをクリック
画像を拡大するにはここをクリック
すべてのシミュレーション過程を以下に示す。
上の図から人口に依存して集会規模が2から4の場合には早く終息することが分かる。 一方.それに隣接する4より大きい範囲では,200日を過ぎてもなお感染者数が増え続ける場合が観察される。
移動頻度が小さい場合に終息が早くなる現象について集団サイズによる影響を確認するため, 同様のシミュレーションを人口が1万人,4万人,9万人の場合を比較する。 下に感染者数が最大となった日付の平均を示す。 上が集会頻度について,下が集会規模についての比較である。
人口1万人では,頻度が22のとき,および,規模が4のときにピークが最も遅くなっている。 人口が多くなるとピーク時の頻度,規模ともに小さくなる。 図では,頻度については4万人のとき16,9万人では12でピークとなるっている。 規模については4万人のときも9万人のときも3でピークとなるが,前後の大小から,9万人の方がやや低い値でピークになるものと推測される。 これらの観察結果は先に行なった 長距離移動の影響 と同様,やや強めの行動制約の下では人口が多いと終息が遅くなることを示している。
専門家が注目する伝染病の特徴に感染 クラスター と スーパースプレッダー がある。 特定の感染者の生理学的特性によるという見方もあるが, 大きな宴会,夜のクラブ,スポーツ行事といった人々が混み合った状況がそのような現象の原因とも考えられる。 新型コロナウイルス感染症では,感染者の70%以上が他の誰にも感染させていない一方で,少数の感染者が多くの未感染者にウイルスを広めていることが,感染経路に関する調査研究から分かっている。 この現象がシミュレーションにおいても出現するかどうかを確認するため,感染者ごとに感染させた人数を記録し統計を取った。 下の図は,感染させた他人の数が0, 1, 2 の感染者の割合を,1人からの最大の感染者数とともに集会の頻度および規模の違いにより比較したものである。
集会の頻度が高くなるにつれ,また,規模が大きくなるにつれ,1人が感染させる数の分布の偏りが大きくなることが分かる。これらの結果は,スーパースプレッディング現象が,特定の感染者の生理学的特性によらずとも,集会等の頻度や規模によって発生しうることを示唆している。
集団内での集会の頻度と規模の変化に伴う感染拡大の推移への影響についてシミュレーション実験を行なった。 頻度が高い,あるいは,規模が大きい場合は,感染拡大が早くなり SIR モデルと同様の傾向が観察された。 集会を極端に抑制した状態でも,速やかな終息が見られ,先に我々が実施した 長距離移動の影響についての結果と同様となった.
© Tatsuo Unemi, 2020. All rights reserved.